少女不十分

読了したー。

西尾維新氏の作品は、読み始めるとおもしろくなってついつい読み進めてしまうものだけど、この作品はノンフィクションとはいえ、著者の10年前を回想するドキュメンタリー作品として書かれている。そのため、氏の作品ではつきものの、変人・奇才・萌えキャラのような物語を盛り上げたり、掻き乱すようなキャラクターは登場しない。主人公である著者自身と少女 U との実際にあった出来事であり、事件のお話だ。そのせいか、少しずつ読み進めて、読み終えるのに1ヶ月ぐらいかかった。

読み終えた後に冒頭で読んだ一節を思い返した。

作家は物語を作る。が、作家志望者は、嘘をついているだけなのだ。どこにラインがあって、どこまでが嘘で、どこからその嘘が物語になるのかは、完全に感覚的なセンスになってしまうので、確たることは何も言えないが、それを判断するのが編集者の仕事のひとつであり、そして彼らの目から見る限りにおいて、当時の僕は不合格だった。

この伏線とも真理とも取れる文章の深さがいま尚分からないところに、氏の言葉遊びの妙があると私は思う。そして、また嘘っぽい。

amazon のレビューをざっと眺めると、予想通り賛否の評価が激しく、好評価をしている人たちも本作品はテンポが悪く、単純なおもしろいかおもしろくないかで言えば、(他作品と比べて) おもしろいと太鼓判を押しているわけではない。その点は私も同意見だ。

ファンならこの作品が好きであろう、この意見も遠からずも近からずだ。私は氏の作品を5年前ぐらいから読むようになった。「戯言」や「世界」シリーズ、小説を読んではいないけどアニメ化された作品もたくさん見てきた。そうやって年月をかけて氏の作品に触れてきた人たちは、この作品を気に入るのではないかと私は思う。

言葉遊びの妙は、テンポの悪い物語、、、ではなく現実の事件においてもボディブローのようにきいているし、決して日常的なお話ではない。ノリとテンポで煙に巻くような展開ばかりの氏の作品において、そうじゃない作品の希少性や別のおもしろみがそこにあるからだ。

そんな風に著者の人となりを想像しながら、のんびり読み進めると楽しめる作品じゃないかな。

少女不十分 (講談社ノベルス)

少女不十分 (講談社ノベルス)